『ザリガニの鳴くところ』(2022)は、公開前から楽しみでした。
原作を先に読むか迷って、結局、映画を先に観ました。
面白い作品ですよね。
作者がディーリア・オーウェンズは、もともと動物学者で、
アフリカでの野生動物研究についてノンフィクションを書いていた人です。
69歳ごろに初めて小説を書き、それが大ヒットしました。
実話ではないんですね。
そうですね。
作者自身が生まれ育った時代とも重なる、1950~60年代のアメリカが舞台です。
主人公のカイヤは湿地の生き物に詳しい。
そこには作者の研究者としての知識が生かされていますね。
1950年代、1960年代は、大戦が終わって朝鮮戦争に入って、
アメリカは景気が良くなってきた時で、
宅地開発をして都市化や郊外開発が進み、
消費生活が豊かになっていきます。
町の人々が近代的な生活へ向かっているところに、
カイヤの一家だけが湿地帯で暮らしているので、
他の住民たちと乖離します。
近隣にほかの住民がいない設定ですね。
湿地帯に住んでいるのはあの一家だけ。
ボートで、時々誰かとすれ違う程度です。
湿地では、貝を獲っていましたね。
自然と共生する生活は、自分にはできないかもしれないです。
虫が来そう。
『ウォールデン 森の生活』を思い出します。この本が出版されたのは1854年だけど、
刊行から約100年たった1950年代には、
アメリカ文学の古典として広く知られるようになっていました。
物質文明から距離を置き、
自然の中で生きるという考え方が、
この物語にも少し重なりますね。
改めて見て暗い気分になりました。
幼少期からあんな家庭で育って、
ようやくいい出会いがあったと思ったら、
置いてきぼりにされる。
ずっと孤独と戦っています。
悲しいですよね。
当時はDVという言葉もなかっただろうけど、ひどいね。
5人兄弟で、母親が出ていった後、
4人の兄や姉も一人ずつ家を出て、
最後に末っ子のカイヤが残される。
お父さんが嫌な奴なんだけど、
みんながいなくなったら、寂しそうにしているので同情しちゃって。
あかん、あかんって思い直した。
みんな、どこに行ったか分からなかったですね。
お母さんは、子供たち取り戻そうとしていたけど、
白血病で亡くなっちゃった。
カイヤはあそこから出て行かれない。
湿地帯に縛られています。
社会から心理的にも地理的にも、
ほとんど隔絶されています。
外の世界が怖いという言い方をしていましたね。
お父さんが「外と関わるな」と言って、
学校にも行かせてもらえない。
そしてある日、勇気を振り絞って学校に行く。
通学路で弁護士トムのような良い人が出てきます。
トムは最後に、ある事件で弁護してくれます。
トムは、カイヤにも学校へ行く権利があると教えてくれる、
トム好きだなあ。
弁護士を引退していたけど、
見るに見かねて救いの手を差し伸べてくれる。
あの2人の接点って、あの出会いだけだったんですかね。
通りすがりでね。
カイヤは覚えていた。
よっぽど外の世界との縁が切れていて、
知り合いも少なくて、
その中で優しくしてくれた数少ない人でした。
あと雑貨店の2人ですね。
雑貨店の店主は、
最初は奥さんに「あの子と関わるな」と言っていたのが、
終盤には「黙っていなくなったら心配するじゃないか」って、
良い人になっていた。
雑貨店の二人は、
カイヤと町を結ぶ数少ない生活上の接点です。
雑貨店で貝を買ってくれて、
パンを買って命を繋いでいく。
一方、テイトから文字を教わったことが、
知識や学問の世界への入口になります。
テイトからいろんなものをインプットしていきます。
カイヤは、自分を捨てていく人や裏切りに対して敏感ですね。
カイヤを理解する雑貨店の二人や弁護士のトム、
そして友人であり恋人でもあるテイト――
数は少なくても、
そういう人たちがいたことは救いだったのかもしれない。
テイトとの出会いがなければ、
後に本を出版することもなかったでしょうね。
今回の談話は「お家」がテーマです。
カイヤの家はユニークですよね。
湿地帯にガラス張りのオープンな感じでね。
指摘されるまで、
あの家のことは印象に残ってなかったですね。
不思議な家。
自然と一体感があるんだけども、
防犯的にはリスキーな家です。
あれは祖父が建てたのだった。
おじいちゃんが土地を購入していました。
別荘かなって思っていました。
ガラス張りで、水辺が近いからか、
ストーリーはめっちゃ暗いのに、鬱々しくない。
明るいお家だけども、
時々虫かごのように見えたり、
鳥かごのように見えたりします。
閉じ込められているわけか。
面白いデザインですよね。
おしゃれに見えるときもあるし、
表情がいろいろ変わるんですね。
カイヤは生涯を全うして、
ずっとあそこに住んでたわけですよね。
土地の権利を手に入れて、
手を加えていきますね。
最初、家の中はぼろっちい感じだったのが、
読み書きを覚え、研究を進めるにつれて、
絵や精密なスケッチが増え、
貝殻が飾られたり、
家がおしゃれになっていく。
ソファを買って、電気も通った。
窓の桟も赤くなってました。
街に出るにはボートしか移動手段ないですよね。
町との近さも微妙ですね。
すぐ行けるところでもなさそう。
テイトが大学に行く前に
「あそこのビーチで花火を見よう」って、約束しました。
テイトは「独立記念日には帰ってくる」と言っていたのに、
帰って来なかった。
あれはひどいですね。
一言連絡しないと。
そのくせ数年後に戻ってきて
「君を諦めきれなかった」って、
無責任すぎますよね。
テイトのお父さんはエビ漁師だけど、
家業を継がずに、
湿地帯の生き物の研究者になる。
テイトも湿地帯から離れられなかった。
結局、戻ってきたんです。
青年チェイスと対照的。
チェイスは終盤で親父の後を継いで支配人になった。
チェイスとの出会いは、
綺麗なビーチで若者たちがバレーボールをしていて、
その中の1人がチェイスだった。
カイヤは街ではチェイスに話しかけないように配慮していましたね。
ああいうグループの中にいたら話しかけにくいしね。
チェイスは婚約者もいてね。
コントラストが効いています。
湿地にいる化粧もしてないカイヤと
文明の中で生きている街の若者たち。
だいぶ色合いが違っていました。
カイヤはチェイスと付き合っても、相性が良くない。
カイヤが勉強しだすと知性が高くて、
そのことにチェイスが驚きます。
驚いているというか、鼻で笑っていました。
カイヤが「これ何々貝よ」って言ったら、
「ふうん、へっ」て、小馬鹿にする。
この頃はまだ女性蔑視や黒人差別がありました。
だから貧しく教育も受けていないと思い込んでいたカイヤに、
専門的な知識があることが意外やった。
そんな感じはしますね。
その前にカイヤの土地が狙われている件があったんで、
チェイスはそういう魂胆で近づいてきたのかなって思ったんですが、
そうではなかった。
土地を売れば、お金が入る。
そしたらカイヤは全然違う人生になっていたのかな。
でも湿地からは出て行かない。
カイヤは「湿地の娘」という蔑称で呼ばれています。
町中の人から「人ならざるもの」みたいな扱い方をされてね。
偏見のせいで、
後半の法廷が不利な方向に進んでいく。
チェイスは、次第にカイヤのお父さんと似たようなことを言い出しますね。
「お前は俺のもんだ」と。
最初はお父さんに対する復讐、
外の世界に対する復讐かなって思っていたんだけども、
そうじゃなくて、
自然の哲学、自分が生きるための手段。
カイヤは、自分の行為を
人間社会の善悪だけでは捉えていないように思います。
中盤で出版社の人たちに、
「生物の世界には善悪がない、一生懸命生きるだけ」
と説明します。
それがカイヤの哲学になって、
今まで一生懸命生きてきた。
そうした考え方が、
父親の暴力を生き延び、
チェイスの暴力から自分を守ることにもつながった。
出版社の人たちとの会食のシーンでは、
蛍の光の目的についても話していたんです。
一つは交尾相手を見つけるために、
もう一つは捕食するために獲物をおびき寄せる。
ラストのカイヤのモノローグでさらっと
「私は蛍」と言う。
私は、お腹をさする仕草を見て、
一瞬、妊娠を示しているのかなと思いました。
その後も、カイヤが気持ち悪そうにしてるとこでも
「えっ」て思ったんです。
あれはその蛍の話にもつながって、
カマキリのイラストも描いていた。
そう考えると赤ちゃんできていたという
一抹の可能性もでてくるかも。
物語のフォーマットは、教養小説で、
無学のあの子がどうやって世界と繋がっていって
知識、教養を手にして成長していくのか、
その中にミステリー要素が入る。
そして、最後に「生きる」という意味が浮き上がります。
そこまで丁寧に描かれていますよね。
タイトルのニュアンスも解釈が分かれますね。
「ザリガニが鳴くところ」っていう言葉が最初に出てきたのは、
お兄ちゃんが出ていくときに、
「お父さんにまた暴力を振るわれることがあったら、
ザリガニの鳴くところまで、遠くまで逃げるんや」
と言います。
だから安全な場所の象徴なのかなって思いました。
ニュアンスはそうです。
ザリガニって鳴かないじゃないですか。
鳴かないなら、幻の世界、架空の世界というか、
現実と離れたところ。
「安全な場所の象徴」とも、
「現実の社会から遠く離れた場所」とも取れますね。
主役のデイジー・エドガー=ジョーンズは1998年生まれ。
ドラマで注目を集めていた。
昨年夏ぐらいの『ツイスターズ』(2024)で主役。
ススティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務めた、
1996年の『ツイスター』に連なる作品で、
竜巻を題材にした映画です。
観ました。同じ女優だと気づいていなかった
グレン・パウエルが相手役、
『ツイスターズ』のデイジー・エドガー=ジョーンズは好きなタイプの女性。
元々学生の時から竜巻の研究をしていて、
ある日仲間が全員竜巻に巻き込まれて死んじゃって、
トラウマを乗り越えるべく、
もう一度巨大竜巻に立ち向かう話。
グレン・パウエルが演じるのは、
動画配信で人気を集めるストームチェイサー集団のリーダーです。
その人と手を組む。
最初は「何だあいつ」みたいな感じのよくある展開。
B級パニック映画で意外とよくできていて僕は感動しました。
『ザリガニ・・・』で唯一知っていたのが、
チェイス役のハリス・ディキンソン。
この人は『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021)で、
キングスマンを生み出すきっかけになった
レイフ・ファインズ演じる主人公の息子役で、
めちゃくちゃいい人でした。
自ら第一次世界大戦に出征し、
仲間を救う活躍をするものの、
敵陣から戻ったところをドイツ兵と誤認され、
味方に撃たれてしまいます。
あとアカデミー賞にもノミネートされていた
『逆転のトライアングル』(2023)。
豪華クルーズ船が難破して無人島に漂着、
名もなき掃除のおばちゃんがサバイバル力を発揮して、
カーストが逆転して、
ハリス・ディキンソンがそのおばちゃんにいいように使われる。
最近だとA24『ベイビーガール』(2025)で
ニコール・キッドマンと共演していました。
弁護士トム役がデビッド・ストラザーン。
『GODZILLA ゴジラ』(2014)にも出ています。
主題歌がテイラー・スウィフトなんですよね。
この世界観に沿った歌詞でしたね。
曲調もマイナーで、メロウで、
湿地帯に合っているね。